入試のために、二年間同じ曲を練習しています。という人がいたら、どのように感じますか?
二年間、熱心に練習をしている行為は評価できるとしても、残念ながら練習の内容や方向性が適切ではありません。ピアノの基礎的な演奏技術が十分に身についていないまま、いきなり難しい曲にチャレンジをしても、あまり意味がありません。必死に練習した結果、その曲が弾けるようになったとしても、その曲だけでのみ通用する技術しか身についていません。
小学生時代の担任の先生が、「中学生になって学業に目覚めた時に、小学三年生の教科書からやり直した。」というお話をされていたのを覚えていますが、ピアノの場合も同じです。
全てに順序があります。バッハの平均律を弾くためには、インヴェンション、シンフォニア。ショパンの練習曲を弾くためには、ツェルニーやクラーマー。同時にハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタを勉強することも重要です。
また、これらの曲の中で使われている音階やアルペジオを美しく弾けるようにするためには、音階とアルペジオは全ての調をマスターすることが必須です。
バッハや古典派のソナタ等、形式ばった楽曲には、言語でいう文法のようなものが存在します。それらは、同じ曲を弾き続けているだけで理解できるものではなく、数をこなすことで、徐々に感覚が掴めるようになるものだと思います。
私たちが普段読んでいる本に、数え切れないくらい単語があるように、楽譜の中にも音型がたくさん存在します。それらをしっかりと手中に収め、初めて見る楽譜においても、無意識に反応できるように訓練されていなければ、より複雑な音型を持ったベートーヴェンやロマン派の大作などを弾きこなせるようにはなりません。
音大を受験するにあたり必要なことは、入試の曲を飽きるほど練習することではありません。入試の曲しか弾けない人は、やっと入学できた音大で、基礎から学び始めることになります。貴重な大学生活で、芸術作品の真髄に近づく本質的な勉強ができるよう、まずは基礎テクニックを最優先に身につけましょう。